はこのなかにはゆめがある

音楽と本と日常について。目下のところ、黒猫チェルシーに夢中。

第1回読書会指定図書『ビューティーキャンプ』

本が好きと公言しておきながら、最近、本が読めなくなりました。
正確には、読む気力がなくなりました。
こう言うと何やらまわりから心配されてしまいそうですが、仕事の環境が変わってストレスが減り、程よい疲労で夜はぐっすり眠り、休日は友人と遊び、大変良い感じの生活を送っております。
それではなぜ、本が読めないのか。色々考えてみましたが、恐らくストレスから解放されたことで脳がフル回転をやめ、ゆるやかな活動になってしまったことが考えられます。
思考がシンプルであるということ、それ自体は決して悪いことではありません。「眠いから寝る」「お腹が空いたから食べる」、これらはとても自然であり、健康的です。よく遊び、よく食べ、よく眠る。理想的ですらあるこの生活に満足ができないのは、きっと私たちが欲張りだからです。考えすぎなほど考えて、深読みして、色んな楽しみを貪欲に味わいたい。
そしてその「私たち」には、私の同期が含まれます。それがわかったのは先週の金曜日のこと。その日、「鰹の塩たたきが食べたい」と同期からLINEが届きました。鰹の塩たたき。我々の住む高知の誇るべき食べ物ですが、この素晴らしさを語ると本筋から離れてしまうため、今回は割愛します。
鰹の塩たたき担である同期は、同時にジャニヲタであり、読書家でもあります。しかしながら、彼女もまた私と同じように本が読めなくなったというではないですか。思考がシンプルになった、趣味にも力が入らない、よく眠り、仕事のストレスは減っている。同じタイミングで同じ状態になった我々は、三連休を目前にこう考えました。
三連休中に二人で同じ本を読んで、読書感想文を書こう。
大変唐突ではありますが、ここで読書会発足です。思い立ったが吉日、同期の運転する車に乗せてもらい、雨のなかTSUTAYAへ。文芸コーナーを練り歩き、目についたのが林真理子さんの著作『ビューティーキャンプ』。この作品は、ミス・ユニバースの称号を得るために集まったファイナリストである美女たちが、エルザの指導のもとで2週間の厳しいキャンプに耐え抜き、より美しくなっていくというものです。
なんだこりゃ面白そうだな! と意見が一致し、第1回読書会の指定図書は、この本に決まりました。
※ここからは作品のネタバレも含むため、ご注意下さい。
念のため最初に申し上げておくと、私は美女ではありません。間抜けで悲しい宣言ですが、美からはかけ離れたところに立つ人間です。卑屈な性格で中身も美しいとは言いがたく、正直にいうと、ミス・ユニバースにそこまで強く興味を持ったこともありません。私は美しい見た目を持つ人を前にすると、それが異性であれ同性であれ、強い憧れと嫉妬心を抱きます。決定的に自分と違う人たち。元々卑屈な性格が、さらに卑屈に、醜くなるのが実感できます。ここを隠してしまうと、この読書感想文は成り立たなくなってしまうので、今回は正直に参ります。
ただ、この小説に出てくるカレンたちのような、飛び抜けて美しい華やかな人たちは、羨みを飛び越して「別世界の生き物だ」と認識してしまうため、そこまで拒否反応は出ません。逆に言えば、その(一方的な)心の距離ゆえ、親しみを抱くこともありません。
そのため、この小説を読むとき、私は少しだけ不安でした。女性同士で築いていく人間関係を描く作品は大好物だけれども、それがすべて美しい人物となると、心の距離が生まれて作品にのめり込めないかもしれない。
けれどもそんな心配は、読み始めるとすぐに吹き飛びました。心の距離なんか無視して胸ぐらを掴んできそうなエルザと、様々な思いを抱きながらもエルザの言葉を通訳する由希。そして、美しいながらも、それぞれに弱点を抱え、それを乗り越えるためにキャンプで鍛え上げるファイナリストたち。
中でも興味を持ったのが、愛嬌があって体型がぽっちゃりしている最年少、十九才の村井桃花でした。このファイナリストたちの中でのぽっちゃりなんて正直、ぽっちゃりでもなんでもないと思いますが、怒られても悪びれず小さく舌を出してまわりを和ませ、キャンプ中にこっそりチョコレートなんて買ってしまう彼女のことを、私はすぐ嫌いになりました。美しく、愛され、でも完璧ではない女の子。怒られたときに深く反省している様子もないのに許されてしまう、その愛嬌。嫌い、ではなく、正確には「許しがたいほど羨ましい」のですが、思考がシンプル化している私は「嫌い」と判断しました。
けれど、物語が進むにつれ、彼女は真剣にキャンプに取り組むようになり、より磨かれた美しさを、魅力を身に纏うようになります。そして私は、彼女を嫌いながらも目が離せないのです。「嫌い」の裏にあったのは、「親しみやすさ」と「興味深さ」でした。
由希が桃花を見守り、心から心配するように、いつの間にか私も桃花を見守っていました。エルザの寵愛を受けていない彼女は、恐らく日本代表にはなれない。それでも、この子がどう変わっていくのか見届けたい。そう思うようになっていました。
弱くて少し愚かでダイエットを実行できない桃花。それがいつのまにか、エルザにも屈しない強さを持つ、魅力的な女性に変わっていくのです。目が離せるわけがない。そして、好きにならないわけが、ない。彼女を嫌いだと思っていた私は、彼女がティアラをかぶる時、確かに嬉しかったのです。私がファイナリストたちの中で一番心を寄り添わせたのは、他でもない村井桃花でした。
桃花だけではなく、他のファイナリストたちについても、彼女たちが弱さを見せるごとに好きになっていきました。思考停止寸前になるよりも前から、私は美を生まれつきの才能だと思っていましたが、それを磨きあげ、いかすのは、紛れもない本人の努力です。そして、それは生まれつきの聡明さを学びによっていかしていく人と、なんら変わらないのです。美とは力であり、堂々と讃えるべき魅力であると、この本は教えてくれました。
最後に、この本に出てくる唯一「美しくない」女性、ユリ。ユリが変わっていくのを見たかったのは私だけではないと思います。そんなあなたにおすすめしたいのが、柚木麻子さんの著作『嘆きの美女』。『ビューティーキャンプ』よりももっとポップな作品ですが、卑屈で外見も美しいとは言い難い主人公が、美女たちによって変えられていく話です。改心した美女になるという話ではなく、性格は変わらないまま突き進んでいくのが爽快で好き。
他の作品に話がとんでしまいましたが、『ビューティーキャンプ』は私のなかに「美」の種をまいていった気がします。これを育てるか枯らすかは自分次第。
感想文に夢中になってさっそく夜更かししてしまったので、美に近づくべくはやく寝ます。日付は変わったけど、私が寝るまでは三連休だから! セーフだということにしてください!
私と同期の他に、我々と仲が良い私の先輩も読書会に入ってくれたので、明日起きてから二人の感想を読むのが楽しみです。それでは、おやすみなさい。